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 医務室に材料を届けにいくマクドールたちと別れ、リウは会議室に入る。
 怒涛の勢いでナナミが駆け寄ってきた。
「リウっ!」
 声と同時にナナミが飛びつく。胸倉をつかみ振り回しながら、
「大丈夫だった? 無事だった? ケガしてない? 痛くはない? 疲れてない?」
「う、うん……。ちょっと、目が、回り……」
「めまいがするの? 疲れたのね? このところリウ具合悪かったでしょ、無理しちゃだめだよ、こんどは絶対私も連れて行くのよ、それでね、実はリウのいない間、こっちで大変なことがあったの。あの……」
「それについては私が話します」
 いつかナナミの後ろにはシュウが立っていた。
 ビクトールとフリックも並んでいる。
「お帰りなさいませ、リウどの。ご無事で何よりです」
「う、うん……」
 城を出るとき一応断りはしたものの、シュウの答えを待たずに飛び出していったわけだから、これは無断外出と同じようなものだろう。
「ごめんなさい、勝手に……出て行って」
「……ほんとうに急を要する場面であれば、あなたを行かせはしなかったでしょう。あのときは解毒剤の入手が最優先課題だった、それだけのことです」
「行かせてやれ、なんて俺たちには言ってたくせにな」
 ビクトールは呟く。フリックが小さくうなずいた。
 聞こえたのか聞こえなかったのか、シュウは続けて、
「クスクスより報告がありました。湖に敵の船影を発見したとのこと、おそらく夜半より明け方にかけて上陸後、本拠地に向かって進軍を開始する模様です」
「進軍って、だっていまは王国軍の出兵は考えられないって……」
 リウの言葉に、
「ええ、王国軍の出兵では、ありません。向こうから文書が届いています。ご覧ください」
 リウは筒状の文書を受け取る。
 手触りは王国文書の羊皮紙そのものだし、大きさもまたハイランドの規格に沿ったものだ。
「これって王国のだろ? 前にレオンが持ってきたのと同じ……」
 口にしながらリウは違和感に気づいた。封ろうには王家の印ではなく見知らぬかたちの押印がされてある。文書を広げ光に透かせば、確かに王家を示す双狼紋の透かし彫りが見当たらない。
 内容は形式に沿った宣戦布告だ。しかし開戦の理由がルカ・ブライト戦に対する報復だというのに、なぜ王家ではなく……
「この印はハイランド屈指の有力貴族のものです。この家名のもとに結集された軍ということでしょう」
「家名? いつもなら獣の紋章のもとに、とか、ブライト家の旗のもとに、とか言ってくるのに……この文書にも、その文言がないなんて……」
 リウは文書から顔を上げた。
 シュウはうなずく。更にもう一つの文書を取り出した。
「こちらはつい今しがた届いたばかりの、王国からの……ジョウイ・ブライトからの文書です。今回の出兵は王国内の反乱分子によるものであり、王国の意にのっとったものではないこと、それを示すために王国の方からも軍を出すことが、述べられています。つまり彼らは正式な王国軍ではなく、その実は王国軍の敵であるということです」
「王国軍の敵って……、じゃあ彼らは、王国と同盟と、二つの敵に挟撃されてるってこと? そんな戦いって……」
「普通ならば考えられない戦です。しかし、ある仮定のもとに推論を立てることは可能です。つまりはじめから王国が、彼らを切り捨てるつもりでいたのなら……」
「……そんなこと! そんなこと……ジョウイが……」
 リウは言葉を失くす。
 月光の下でピリカの寝顔を見つめるジョウイが、血に濡れたナイフを手にアナベルの横に立つジョウイが、抜き放った剣を手に降伏を訴えるジョウイが、リウの記憶をめぐる。
 言いたいことは、言わなきゃならないことはたくさんあるはずなのに、それがうまく声にならない。
「そうだよ! ジョウイがそんなこと考えるわけないじゃない! きっと他に何か事情があったのよ! 絶対! そうなんだから!」
 ナナミが叫ぶ。それがリウには、悲鳴にすら聞こえて、
「ナナミ……とにかく今は、戦わなきゃ……だから」ナナミの肩に手を置き、
「敵について……他にわかっていることは?」
「……リウ!」
 ナナミがリウの言葉をさえぎろうとする。しかしリウは首を横に振る。
「敵の兵力は一万、主にハイランド北方貴族たちの私兵と、ルカ直属の部隊の残存兵で構成されています。数としてはこちらと同等ですが、私兵集団というのはたいてい、部隊相互の連携がうまくとれないという重大な欠点を持っています。そして今回の進軍の様子を見る限り、彼らもその例にもれないかと。ここをつけば、勝てます」
「わかった。僕も行くよ。指揮は、前線で取る」
 兵が駆け寄る。
「全軍、出陣の用意が整いました!」
 リウは息を吸い込み、シュウを、フリックを、ビクトールを見る。
 うなずきあい、
「よし! 全軍……出陣!」
 リウの合図に、一斉に鬨の声があがる。リウはジョウイからの文書を胸に、きつく抱いた。
 テッドの矢に身をさらし、ためらいもなく歩み寄ったマクドールの背を思う。

 僕には……その強さは……





書いてて思うこと

 幻想水滸伝の戦争イベント。兵の人数が一体何を基に算出されているのか分からないのですが……とりあえずゲームで出てくる兵力に近い感じに数字を当ててみました。
 適当です。すいません。

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