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 扉を開けると、部屋は青い月明かりに満ちていた。
 湖の風が髪を揺らし、リウは窓が開かれていることを知る。窓辺の月に影になって、マクドールが立っていた。
「お帰り……、そして、おつかれさま」
 微笑むマクドールの隣に、リウは歩み寄った。涼やかな冷気が体を包む。秋が近いのかもしれない。窓枠にもたれ、湖を見る。
「……うん、ほんとに……疲れた」
 夜の水面は静かで、城を照らすかがり火が淡く揺れている。晴れていれば遠くに対岸の明かりが見えるはずなのだが、今は雲が出ているのか、それとも時間が遅いせいか、水平の空は暗いままだ。
 リウは独り言のように、
「結論のでない会議ほど、疲れるものはないですよね……。シュウさんは……ルカ・ブライトを倒した時点で、ハイランドに和平を申し込むつもりでいたんです。僕だって、同じ気持ちで……。でも……ジョウイは」
 戦いが終わると信じて上ったジョウストンの丘。十日を隔てた今でさえ、向けられた無数の矢が、突きつけられたジョウイの銀の剣先が、瞼に焼きついていて離れない。
 ハイランドと、同盟……。共存することはできないのだろうか。
 リウは深く息をつき、マクドールに向き合った。
「いくらみんなで話していたって、何が良くなるというわけじゃないんだ。分かっているのは、ハイランドが和平を望んでいないこと、そして同盟にはハイランドの軍事力に対抗できるだけの兵力がないこと。やらなければならないのは兵力の増強、それは当然だけど、僕は……」
 リウは口を閉じ、うつむく。
「ごめんなさい、愚痴になってしまいますね……」
 右の甲に左の手のひらを重ねる。この紋章を宿したときには、一つの紋章をジョウイと共に分け合ったことに喜びさえ感じていたのに……
 頭にのせられた手に、リウは顔を上げた。マクドールの笑顔がある。
「ちょっと……外に出てみないか?」
「外って、でも、城の入り口には見張り……じゃなくて、警護してくれてる人が……」
 マクドールは目で窓の外を示す。
「余分なシーツとか、カーテンとか、なんでもいいから、それを結んでロープみたいにしてしまえばいいんだ。どう?」
「……つまり、やったことあるんですね?」
 マクドールは頬をかく。
「グレミオには、黙っててね……」
「……僕も、ナナミとシュウさんには内緒ですよ」
 互いにうなずく。それから揃って部屋中の布を引っ張り出しはじめた。




書いてて思うこと

 この話がコピー本として初めて発刊されたのは、2003年12月のこと。あれからそろそろ4年経つんだな……




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