14

 誰かが僕の名を呼んでいる。しきりに肩を揺すっている。

 何かを叫んでいるようにも聞こえるけど、何て言っているのかは、分からない。

 まぶたの向こう側で、青い光が僕を照らし……
 ふと、体が楽になった。
 目を開けると、左手を掲げたテッドがいる。
 僕は床に横たわっていて、テッドが傍らに膝をついているのだ。
 声をかけようとして、息がうまくできないことに気づく。
 手を伸ばしたくても、体中がしびれたみたいに重くて、どうすれば動くのか、分からない。
「俺、絶対あんたを助けるからな! だから、死ぬなよ! 一生のお願いだから……!」
 テッドの涙が、僕の頬を濡らす。
 どうして、泣いているんだろう。
 僕はゆっくり、右手をあげて、テッドの顔に触れた。
 僕の右手に刻まれた、ソウルイーターが、赤い光を帯びている。
 こうしているだけで、少しずつ、この紋章の過去のことが、記憶に流れ込んでくる。


 木々からこぼれる優しい陽光、鳥のさえずり、青い水をたたえた井戸。
 これはテッドの育った、山奥の村。
 おじいさんがいる。村の人もいる。
 隠された紋章の村の、たった一人の子どもだったテッド。皆に大事にされて、かわいがられて、育ったんだな……。



 ……焼け跡を照らす、赤い夕陽。
 崩れかけた社に、青い光が満ちている。
 過去に飛ばされた僕が、小さなテッドを前に、立っている。
 宿したばかりのテッドの紋章は、禍々しいほどの赤い光を放ち続けて、治まることもなく……
 バンダナの裾を引きちぎった布で、僕はテッドの右手を巻いた。紋章の光が少しでも、弱まればいいと思って。
 僕は右手の、皮手袋を取った。
 その右手を、テッドの紋章に重ねる。
 目を見開いて、テッドが僕を見る……
 そうだよ。僕はテッドと同じ紋章を宿して、未来に生きてる……!



 霧に覆われた崖に、不思議な形をした船が近づいてくる。
 あれが、霧の船。
 意を決して足を踏み出した、テッド。
 その肩を掴まえて、思いっきり叫んでやりたい。僕は、ここにいるって。



 水晶の散る谷の奥で、テッドが立って、僕を見ている。
 ウィンディから僕を守るために、テッドができた、たった一つのこと。
 テッドを抱いて、泣いているのは僕。
 テッドがかすれた、小さな声で、何かを言っている。


 会いた、かった、
 探して、
 やっぱり……お前だったんだ、
 また、会えた……って。




 そうだ。だから何も、心配いらない。
 必ず僕らは、もう一度出会い、




 導者に奪われた記憶も、何もかも、





 思い出せるよ、全部……


 
  
   
    

書いてて思うこと


 

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